資産運用の必要性は年々増しています。少子高齢化に伴う年金支給額の減少、日本銀行によるマイナス金利の導入、アベノミクスの減速など、理由を挙げればキリがありません。しかしながら、多くの人が資産運用の必要性を理解している一方で、日本の金融資産残高に占める預貯金残高は依然として5割を超えています(参考)。つまり、まだまだ多くの個人資産が活用されずにいるのです。
資産運用はきちんとした知識を持って行えば、大きな損失を被ることなく、着実にお金を増やすことができます。特に現在は様々な運用資産があり、初心者でも手軽に始められるものも多くあります。
この記事では、運用資産の種類と特徴をまとめ、その中でも初心者向きであるETFについて分かりやすく説明します。また、いくつかの代表的な海外ETFの実例を取り上げ、そのパフォーマンス分析をまとめます。資産運用には興味があるけれど始め方や選び方がわからない、といった方にぜひ読んでいただければと思います。
目次
運用資産の種類と特徴
運用資産を選ぶときに重要となるのが「リスク」と「リターン」です。こちらを始めとした様々な方が運用資産の種類と特徴についてまとめていますので、ここでは簡単にまとめます。
以下に分かりやすくまとめられた図を載せます。
(出展:http://incomlab.jp/asset-management-3528)
この図に示されているように、各資産クラスのリスクとリターンは、
- ローリスク・ローリターン ・・・ 預金、国債、外貨預金
- ミドルリスク・ミドルリターン ・・・ 投資信託、ETF、外貨MMF、REIT、株式投資、不動産投資
- ハイリスク・ハイリターン ・・・ FX、先物取引
と分類することが一般的です。
ご自身が許容できるリスクに応じて、これらの中から運用資産を選択・組み合わせていくことになります。例えば、資産に余裕がある方や、長期間継続して投資できる方は、大きめのリスクを許容できると考えられますので、FXや先物が選択肢に入ってきます。
ETF 投資は初心者におすすめ
このように多種多様な運用資産ですが、実は投資信託・ETFには様々は種類があり、これだけでかなり幅広いリターンとリスクを実現することができます。例えば、ETFの中には、国債と同様の値動きをするローリスク・ローリターンのものから、FXと同等の動きをするハイリスク・ハイリターンのものまであります。リスクを分散して効率的に運用するには、投資信託・ETFだけで十分ということです。複数の資産クラスを管理する手間が必要ないので、初心者向けの投資対象と言えるでしょう。
投資信託とETFを比べると、通常はETFのほうが手数料が安くなっており、取引も株取引と同じく簡単です(具体的な比較はこちらが参考になります)。この手軽さと、上に述べた多様性により、現在非常に人気のある投資対象となっています。このことから、資産運用をされる方、特に初心者の方には、ETFへの投資をお勧めしたいと思います。
ETF投資の運用スタイル
資産運用を行う際には、自分の投資スタイルを決めておく必要があります。ここでは投資信託やETFによく用いられる三つの運用スタイルについてまとめます。
トップダウン型/ボトムアップ型
トップダウン型は、各国経済や産業状況などをマクロ分析し、徐々に個別資産を選定します。一方、ボトムアップ型では、まず個別の債券・株式・不動産等を分析し、それらを組み合わせることでポートフォリオ全体を構築します。本質的には同等なアプローチですが、初心者にはトップダウン型のほうがイメージしやすく、始めやすいかもしれません。
パッシブ型/アクティブ型
パッシブ型は、日経平均やTOPIXといった指標を決め、これと同じ運用収益を得るように運用するスタイルです。一方、アクティブ型は、こういった指標の運用収益を上回るように、調査や分析を行ってポートフォリオを改良し、積極的に運用するスタイルです。近年の研究では、アクティブ型は運用手数料を加味するとインデックス型に負けることが多いことが示されています。そのため、ここではパッシブ型をお勧めしたいと思います。
グロース型/バリュー型
グロース型は、将来の成長に期待して投資するもので、企業利益に対して株価が高い株式に投資することが多いです。グロース型は株価が高いため下落リスクが大きいですが、企業が期待通りに成長した場合には株価も大きく上昇します。一方、バリュー型は、企業利益に対して株価が安く、今後の株価調整による利益を狙って運用を行っていくというものです。バリュー型は株価の上昇幅が調整程度の小幅になりやすいですが、既に割安なので下落リスクも小さいといえます。リスク・リターンの観点から見れば、一長一短があるということです。
初心者向きの運用スタイル
初めて投資される方や投資経験の浅い方におすすめしたいのが「トップダウン・パッシブ・バリュー型」の運用です。上で述べたように、初心者にはトップダウン型のほうがイメージしやすく、始めやすいと思います。また、パッシブ型は手数料が安くなっているうえ、分散効果が高く、安定的な資産運用を期待できます。バリュー型は値下がりする可能性が比較的小さいため大きな損をするリスクが小さく、この点も安定収益に繋がるといえます。具体的な銘柄選びの方法は、別記事にまとめたいと思います。
初心者の方にお勧めできるもう一つの方法は、「有名なポートフォリオを真似る」ということです。世界中の人に評価をされてきたポートフォリオですから、初心者が一から構築するポートフォリオよりもよいパフォーマンスを期待できます。インターネット上では様々なポートフォリオが公開されています(例:Forbes)。これらの有名ポートフォリオは、例えばこちらのサイトのようにワンクリックで過去のパフォーマンス分析を行うツールも整っており、非常に初心者向きといえます。もちろん実際に投資を行う際には、真似るだけでなく、そのポートフォリオのリスクをきちんと理解して投資する必要があります。
代表的な海外ETFポートフォリオとそのパフォーマンス
ETF投資は世界的にも幅広く浸透しており、様々なポートフォリオが提案されています。ここでは、いくつかの代表的な海外ETFポートフォリオとそのパフォーマンス分析をまとめます。ETFの利回りデータさえあれば誰でもできる分析なので、興味のある方は以下の手順に沿ってご自身のポートフォリオを分析してみていただければと思います。
なお、代表的なポートフォリオの選定、およびその利回りデータ取得にはこちらのサイトを使用しています。
ポートフォリオの構成
以下に、分析に用いたポートフォリオの構成を記載します。一部、日本の証券会社では取り扱っていないETFもありますが、多くの場合はほぼ同じ値動きをするETFがありますので、日本でも同等のポートフォリオを構築可能かと思います。
- Growth (VTI 52%, VXUS 28%, BND 16%, BNDX 4%)
- Moderate (VTI 39%, VXUS 21%, BND 32%, BNDX 8%)
- Conservative (VTI 26%, VXUS 14%, BND 48%, BNDX 12%)
- Income (VTI 13%, VXUS 7%, BND 64%, BNDX 16%)
- Bill Schultheis Coffee House (VXUS 10%, BND 40%, VFINX 10%, VISVX 10%, NAESX 10%, VGSIX 10%)
- Bogleheads Three Funds (VTI 50%, VXUS 30%, BND 20%)
- David Swensen Yale Endowment (VTI 30%, VGSIX 20%, VTMGX 15%, VEIEX 5%, TLT 15%, VIPSX 15%)
- Fund Advice Ultimate Buy&Hold Portfolio (VFINX 6%, VIVAX 6%, NAESX 6%, VISVX 6%, VGSIX 6%, VTMGX 12%, VEIEX 6%, EFV 12%, VFITX 20%, VFISX 12%, VIPSX 8%)
- Harry Browne Permanent Portfolio (VTI 25%, TLT 25%, CASHX 25%, GLD 25%)
- Larry Swedroe Simple Portfolio (VIVAX 15%, IJS 15%, NAESX 13%, VEIEX 4%, EFV 13%, VIPSX 40%)
- Mebane Faber lvy Portfolio (VTI 20%, VEU 20%, IEF 20%, VNQ 20%, GSG 20%)
- Rick Ferri Core Four (VTI 48%, VGSIX 8%, VXUS 24%, BND 20%)
- Scott Burns Couch Portfolio (VIPSX 50%, VXUS 50%)
- Stocks/Bonds (60/40) (VTI 60%, BND 40%)
リターンとリスク
まず、各ポートフォリオの利回りです。5年ごとの平均年率利回り(配当込み)を集計しています。
いずれも各期間でゼロ以上なので、資産を増やせていることがわかります。また、どれも平均年率利回りが10%程度ですので、非常に優秀な収益性を示しています。この中では、「David Sweden Yale Endowment」というポートフォリオの収益性が最も高いことがわかります。しかし、リターンを見るだけでは、ポートフォリオを選ぶことは出来ません。それは、リターンの大きなポートフォリオには常に大きなリスクが伴うためです。
それでは、リスクはどのようになっているでしょうか?ポートフォリオのリスクは、各期間の利回りの標準偏差を計算することで計測できます。
ご覧の通り、リターンの大きかったポートフォリオではリスクも大きい傾向にあることが分かります。まさに、リスクとリターンが比例しているわけです。先ほどの「David Sweden Yale Endowment」というポートフォリオのリスクは、他のものと比べて平均的と言えるでしょう。リスクが平均的でリターンが最大なので、やはりこのポートフォリオは優秀であるように思われます。
同様にして、それぞれのポートフォリオの「リスク」に対する「リターン」を比較し、最も効率的に資産運用できるポートフォリオを探しましょう。これを行うためには、「シャープレシオ」が必要になります。
効率的な資産運用の指標:シャープレシオ
シャープレシオはリターンをリスク(標準偏差)で割ったものです。
この式の「無リスク資産のリターン」とは、リスクがない資産のリターンのことで、通常は国債利回りなどを用います。つまり、分子の「リターン-無リスク資産のリターン」は、「リスクを取ることによって得た収益」を表しています。一方、分母は「収益を得るために取ったリスク」です。この比を取ることで、「被ったリスクに対してどれだけ収益を得たか」、計算することになります。簡単に言えば、シャープレシオが大きいほど、効率的に収益をあげたことになります。
なお、ここでは簡単のために、無リスク資産のリターンは1%としました。
以下に、過去25年間における各ポートフォリオのシャープレシオをまとめました。
シャープレシオが最も高くなっているのは、「Income」ポートフォリオで、65%となっています。一方、最も低いものは「Growth」および「Bogleheads Three Funds」の40%です。その比は1.63になります。これが意味することは非常に簡単で、「同じリスク量に対して、Incomeポートフォリオ は Growthポートフォリオ よりも1.63倍稼げる」ということです。よって、「Income」ポートフォリオが最も効率的なポートフォリオということになります。
さて、ここで確認ですが、先ほどまでは「David Sweden Yale Endowment」の収益性が最も高いと考えていたのに、なぜ「Income」ポートフォリオのシャープレシオが最大(つまり最も効率的)となっているのでしょうか?年率リターンとリスクの図を見ると、「David Sweden Yale Endowment」がハイリスク・ハイリターンであるのに対して、「Income」ポートフォリオはローリスク・ローリターンであることがわかります。投資の効率性はリスクに対するリターンで決まるので、ローリターンであっても、リスク次第では非常に効率的になるのです。実際、「Income」ポートフォリオのリスクは全ポートフォリオの中で最小です。これにより、「Income」ポートフォリオはシャープレシオが最大となり、最も効率的なポートフォリオになっていると言えます。
収益性の安定性
ここまでの分析で「Income」ポートフォリオが良さそうだ、ということがわかりました。しかし、もう一点確認することがあります。それは、収益性の安定性です。上の分析では25年分のデータをまとめて一つのシャープレシオを計算しているので、いわば25年間の平均を取っていることになります。しかし、実際には5年で解約したい、というケースもあります。そのため、5年間という比較的短期間において、収益性が悪化しないかどうか、確認する必要があるのです。
収益性はシャープレシオで計測できるので、収益性の安定性はシャープレシオの変化、つまり標準偏差を計算すればよいことになります。25年間のデータを5年ずつに分割してこれを計算したものが以下です。
ご覧の通り、「Income」ポートフォリオはシャープレシオの標準偏差が17%と、他のポートフォリオに比べてずっと小さいことがわかります。つまり、このポートフォリオの収益性は、他のポートフォリオより大きく安定していると言えます。
価値推移の詳細
最後に、この分析で最も収益性が高いと判断した「Income」ポートフォリオの実際のパフォーマンスをグラフ化します。1986年に10,000ドルを投資し、その収益を毎年再投資すると仮定した場合のポートフォリオ価値推移が以下になります。
このように、1986年から2015年までの30年間で、ポートフォリオ価値は10,000ドルから72,686ドルへと7倍以上増えています。さらにその収益性は非常に安定しており、比較的大きな損失を出しているのは、2008年の金融危機のみとなっています。この安定性は、このポートフォリオの80%が債券に投資されていることによると言えるでしょう。単純平均利回りは24.22%、複利は7.27%となっています。
まとめ
今回は運用資産の種類を紹介し、なぜETFが資産運用に適しているのかを説明しました。また、海外ETF投資に焦点を当て、その代表的なポートフォリオの収益性を分析しました。その結果として、「Income」ポートフォリオが最も効率的で収益性の高いポートフォリオであることをご紹介しました。その利回りは7%以上あり、収益性は非常に安定しています。
ETFであれば初心者でも簡単に始められますし、資産運用のポートフォリオとしてご検討されてはいかがでしょうか。
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