資産運用している方であれば、ほぼすべての方が「儲ける」ことを目標にされていると思います。しかし、実際には資産運用は確率に強く影響されるため、損をしてしまう方が多いことも事実です。
プロの投資家はどのようにして継続的に利益を生んでいるのでしょうか?もちろん、現代ポートフォリオ理論などの習得や、精度の高い経済予測、さらには綿密な銘柄調査などもあるでしょう。しかし、これらは一般の方、特に初心者にはハードルが高く、実践するためには何年もの準備が必要になってしまいます。ここで、初心者でも手軽に学べる実践的スキルが一つあります。それは、「儲かる確率」「損する確率」の計算です。これを知っておくことで、損しづらいポートフォリオを組めるだけでなく、実際に損失が出てしまった場合にも冷静に分析し、対処することができるようになります。
この記事では、資産運用で継続的に利益を得るために知っておくべき、「儲かる確率」「損する確率」の計算方法をまとめます。
目次
使用するポートフォリオ
以下では、例として現在価格100万円、平均年率利回り5%、標準偏差7%のポートフォリオを保有しているとします(利回り、標準偏差の計算についてはこちらなどが参考になります)。
公式
以下に、資産運用に役立つ公式をまとめます。
なお、すべての公式は、ポートフォリオの利回りが正規分布に従っていることを仮定しています。この仮定は投資の世界ではよく使われるものです。本当にこの仮定が正しいのかどうかについて確認する方法については、記事の下のほうにサンプル付きで解説していますので、ご参照ください。
公式やエクセルファイルの使用法についてご質問のある方は、問い合わせフォームよりお問い合わせください。
1年後に95%の確率で実現される利益
公式は以下です。
- 1年後のポートフォリオ価値の95%範囲の上限 = 現在価格 + 現在価格 × (平均年率利回り + 2 × 標準偏差)
- 1年後のポートフォリオ価値の95%範囲の下限 = 現在価格 + 現在価格 × (平均年率利回り - 2 × 標準偏差)
この公式を使うと、以下のことが言えます。(途中式)
【1年後のポートフォリオ価値は95%の確率で、91万円から119万円の範囲になる】
このようにポートフォリオ価値の取りうる範囲が分かれば、1年後に価値が95万円になっていても慌てずに済みます。また、もし価値が85万円なっていたら、確率5%以下の事象が起きていることになるので、何か想定外のことが起きている可能性が高いと言えます。例えば政治情勢が急激に変化したのかもしれませんし、銘柄発注にミスがあったのかもしれません。
また、ライフプランを考えるうえでも、ポートフォリオ価値の95%範囲を知ることは重要です。今回の例の場合には、例えば1年後に90万円程度の出費(子どもの受験費や入学金など)を伴うライフプランを立てられることになります。なぜでしょうか?それは上の分析の結果、ポートフォリオ価値が91万円以上になる可能性が95%以上であると予想されるためです。支出が発生するまでの1年間は資産運用し、1年後にポートフォリオを清算して得た現金で90万円を支払えばよいことになります。もちろん、91万円というのはあくまでポートフォリオ価値の下限で、期待値としては105万円(=利回り5%)なので、1年間の運用益を期待することもできます。
10年後に95%の確率で実現される利益
公式は以下です。
- 10年後のポートフォリオ価値の95%範囲の上限 = 現在価格 + 現在価格 × (10 × 平均年率利回り + 2 × 3.16 × 標準偏差)
- 10年後のポートフォリオ価値の95%範囲の下限 = 現在価格 + 現在価格 × (10 × 平均年率利回り - 2 × 3.16 × 標準偏差)
この公式を使うと、以下のことが言えます。(途中式)
【10年後のポートフォリオ価値は95%の確率で、106万円から194万円の範囲になる】
95%範囲の下限が100万円よりも大きいということは、95%以上の確率で儲けられることを意味しています。なぜこのように高確率で利益を出せるのでしょうか?それを理解するためには、以下の解説をお読みください。
n年後に95%の確率で実現される利益
以下の公式が成り立ちます。
- n年後のポートフォリオ価値の95%範囲の上限 = 現在価格 + 現在価格 × (n × 平均年率利回り + 2 × √n × 標準偏差)
- n年後のポートフォリオ価値の95%範囲の下限 = 現在価格 + 現在価格 × (n × 平均年率利回り - 2 × √n × 標準偏差)
この公式を使うと、ポートフォリオ価値の95%範囲を以下のように図示できます。
上の図からわかるように、長期保有するほど95%範囲の下限は大きくなり、損する確率は小さくなります。特に、8年目以降は95%範囲の下限がゼロ以上になり、ほとんど損しなくなることがわかります。これはなぜでしょうか?
まず、この性質を数式から説明します。「n年後のポートフォリオ価値の95%範囲の下限」の公式に「n × 平均年率利回り – 2 × √n × 標準偏差」という箇所があります。このうち、第1項が利益、第2項が損失に繋がる部分なのですが、第1項の係数がn であるのに対して、第2項の係数は√nです。ですので、保有年数が大きくなるにつれ、第1項の寄与が大きくなり、利益が増していくことになります。
また、これを直感的に説明することもできます。標準偏差(リスク)とは、数字が変化するバタつきのことです。短期保有ではそのバタつきで損益が激しく入れ替わるのですが、長期間保有する場合にはこの損益が打ち消しあうのです。これにより、収益が安定化し、徐々に平均的な利益(公式の「n × 平均年率利回り」の部分)に近づいていくのです。
n年後に儲かる確率、損する確率
n年後に儲かる確率を計算するためには、エクセルまたはオンラインツールを使用するのが最も簡単です。エクセルを使用する場合には、NORM.DIST関数を使用することになります。使用法は以下の通りです。
- n年後に損する確率 = NORM.DIST(0、n×平均年率利回り、sqrt(n)×標準偏差、1)
- n年後に儲かる確率 = 1 – n年後に損する確率
エクセルを使用せず、オンライオンツールを使用する場合には、例えばこちらのサイトなどを使用することになります。このサイトの場合には、「パーセント点」に0、「平均」にn × 平均年率利回り、「標準偏差」に√n × 標準偏差を入力することで、【n年後に損する確率】を計算できます。
これにより、「儲かる確率、損する確率」を計算し、図示したものが以下です。
保有年数が長くなるにつれ、儲かる確率が大きくなっていることがわかります。これは先ほどの解説の通り、長期保有すると損益が相殺し、平均的な利益を得られるようになるためです。したがって、資産運用で利益を出すためには、まず「長期保有すること」が重要になります。
ただし、必ずしも長期保有が正解ではない場合があります。それは、この公式の仮定が崩れた場合です。この公式の仮定とは、一言でいえば「利回りの分布が平均利回り〇%、標準偏差〇%の正規分布に従っていること」です。これが崩れる場合とは、例えば政治情勢の急激な悪化による標準偏差の拡大、または金融規制の強化による平均利回りの減少などが挙げられます。長期保有する際には、こういった仮定が崩れていないか逐次確認することが必要になります。
また、そもそもポートフォリオの利回りが現時点で正規分布に従っていない場合には、これらの公式を使用することは出来ません。これを確認する方法を次に解説します。
公式の仮定とその確認
上で述べたように、この公式が仮定していることは一つだけです。それは、「利回りの分布が正規分布である」ということです。「正規分布」というと難しく聞こえますが、実は投資の世界では非常によく使われ、ノーベル賞受賞者もいるほどです(参考)。正規分布を知らないプロ投資家はいないといっても過言ではありません。正規分布というのはいくつもの良い数学的性質を持っており、上の公式もその性質から来るものです。
公式を使用する際には、「本当に利回りの分布が正規分布しているのか」ということを確認する必要があります。正規性の確認には様々な種類がありますが、最も簡単なのは、フリーのエクセルツールを使用することかと思います。例えばこちらのツールでは、エクセルに利回りを入力するだけで、それが正規分布しているか判定してくれます。
以下、使用例です。
使用したデータは、以前の記事(【資産運用】ETF投資の特徴と代表的ポートフォリオの収益性分析)でお勧めした「Income」ポートフォリオの利回りデータです。
「判定」のところに「正規分布の可能性がある」と書かれているため、正規分布していると仮定しても間違いではないと分かります。
- なお、「正規分布の可能性がある」という弱い表現になっているのは、このようないわゆる仮説検定と呼ばれる証明法の性質のようなものです。一般的に、正規分布の可能性を否定されない限り、それを仮定することは許容されます。
このようにして、ツールを活用することによって、実際の利回りが正規分布しているのか、そしてその公式を使用することができるのかを確認することができます。
まとめ
資産運用は確率に強く影響されるため、損をしてしまう方が多いことも事実です。この記事では、資産運用で利益を得るために知っておくべき、「95%の確率で実現される利益の範囲」「儲かる確率」「損する確率」などの計算方法をまとめました。これらを理解することで、ご自身のポートフォリオが将来どのくらいの価値になりえるのか、どのくらいの確率で損しうるのかを知り、そしてそれを踏まえたライフプランを検討していただければと思います。
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